歴史から消されるように自害した薩摩藩家老・調所。
1989年の薩摩藩経済官僚(講談社文庫)を加筆・修正・改題したのが本書である。NHK「篤姫」の初めに平幹二郎扮する調所(ずしょ)笑左衛門が少し登場した。その調所が島津重豪(25代宗主、斉彬は28代)に仕えてから人生が変わっていく。当時の薩摩藩は五百万両の借金で事実上の破綻状態、そこに重豪が徐々に見込んできた調所は再建の見込みがない藩財政を立て直す。とは言っても藩が無くなってしまう法的整理ではなく各債権者に対する私的整理で、借入過多の「薩摩藩」の債務は切捨て整理し、第二会社として「島津家」を新たな債務者として借り入れる画期的なスキームだ。実質全債務の棚上げ、250年返済、貨幣密造、密貿易と、今でもどこかの国がしているようなことを当時にやってしまった。しかし調所がここまで奮闘努力しなければ薩摩中心の幕末はなかった。篤姫の御台所もなかった。斉彬も西郷も大久保も違う人生になったはずだ。調所からはいくつもの教訓を与えてくれる。上司に見込まれたら不可能と思ってもとことんやるべきだ。諦めたくなっても望みを捨てないことだ。大坂でどこの貸金業にも相手にされず江戸に帰る前にダメもとで出雲屋孫兵衛に出会ったように、とても無理だと思っても最後まで行動することだ。しかしこれだけのことをして家老まで上りつめた調所だが、重豪、斉宣、斉興から斉彬の時代になり、西郷、大久保、その他の人々の如く明治維新に躍り出る人々の評価が上がれば上がるほど相対的に調所の評価は下がってしまい、結局は殆ど歴史上から消えてしまった。米沢藩の上杉鷹山とは違った手法の藩財政の救世主だが、少なくとも調所は薩摩藩を維新への表舞台に登場させた薩摩の偉人であったことは覚えておきたい。
小難しい理屈抜きに読める逸品!
以前から、調所笑左衛門という人の名前は聞いていたし、その業績の偉大さも知っていた。 しかし、月並みな・・・と言っては失礼だろうが、こういう改革というものは、現代でもそうだが、何をやるべきかは意外とわかっているもので、それをどう実行するかが問題であることが多い。しかし、この幕末突入以前に薩摩藩がおかれていた窮状というものは、もう、そういったものを通り越したもののようであり、この点で、まさしく、今の天文学的な国債残高にも酷似している。 その、もはや手の着けようのない財政赤字というものを改革し、逆に幕末の回天資金を蓄えるに至ったという点で、以前から調所という人物には大いにそそられるところがあった。 当初、私が思っていたのは、この調所という人物は、茶坊主上がりながら、才智に長け、その経済的手腕を認められ抜擢された・・・とばかり思っていたが、同書を読んで、調所が元々、経済など全くわからない素人であったこと、藩主のバックアップあってのことではなかったことなど、かなり、意外であった。 本来であれば、こういう経済物はいくら、時代物であっても、私のような愚鈍な人間には理解しにくい物で、最初は読み進んでいても、難しいところに来ると、はたと止まってしまったりする物だが、その点、この本は、噛み砕いて説明するようなことはせず、最低限に絞り、さっと流しているが、それが逆に読みやすく、瞬く間に読んでしまった。 その意味でも、学ぶところ多く、それでいて小難しい理屈抜きに楽しめる逸品であった。
学陽書房
大君の通貨―幕末「円ドル」戦争 (文春文庫) 官僚川路聖謨の生涯 (文春文庫) 田沼意次―主殿の税 (人物文庫) 幕末「住友」参謀 広瀬宰平 (人物文庫) 江戸繁昌記 寺門静軒無聊伝 (講談社文庫)
|